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八木敏幸氏 アートディレクター、イラストレーター インタビュー
(略)  ・・・八木敏幸氏  ・・・e-Spirit

八木監督が考えるCMの世界観やコンセプトをお聞かせください。

 いつもリアルな世界を描きたいと考えています。 広告は、たいていの場合「理想の暮らし」とか「理想の家族」とか「理想の職場」みたいな設定で描かれます。 もちろん、商品のイメージをよく伝えるためには、それはそれで必要なことだと思いますが、 そういう表現はいっぱいあるし、現実は違います。本当にリアルな世界を描いた方が見ている人に伝わるんじゃないか、と思っています。

 例えば、あるストーリーがあって見ている人に共感してほしい時、登場人物はカッコ良すぎても悪すぎてもダメだし、 そこで話すセリフも極力しゃべらされているのではなく自分の言葉で話しているように見せたい…「私もあんな風にならなれるかも…」 とか「ああ、俺もあんなこと言うよな。」と思ってほしい。つまり見ている人が『自分に置き換えられる世界』を作るということがリアルだと思っています。

 タレントもののCMも多く演出しているのですが、ニッコリ笑って「この商品をおすすめします。」みたいな作りのものは少ない。 できるだけ普通の人に見えるように演出したり、その人そのもの「芸能人○○」みたいな役を演じてもらうことが多いですね。タレントさんその人の「素」みたいなものを引き出したいと言うか…。

具体的な作品で言うと…

サッポロビールのときは、タレント西田(敏行)さんにほんとにビールを飲んでほしい、と思いました。 やっぱり撮影の時ってほんとには飲まないじゃないですか。でも演技ではなく飲んで食べて、しゃべって、現実に居酒屋にいるつもりになって欲 しかったんです。

だから店を丸ごと一つ作りました。当然、他のお客さんもほんとに飲んでいるし、厨房の中の人は現実に料理を作る、店員役の人も実際に店の人として働いているし、セットなのに注文したものはちゃんと出てくるという風に徹底しました。

おかげさまで西田さんには撮影の間中、飲んでもらいました。最後結構気分よく酔っぱらってられましたけど…。


キャスティングに関してどうお考えですか。

 キャスティングとカメラアングルとは非常に大事だなと思っています。いつも最後まで悩みます。 キャスティングに関しては大抵の場合、「まるで本物のように見える人」を探すことが多いですね。

 例えばお巡りさん役だとすると、現実のお巡りさんが、あたりまえですが一番お巡りさんらしい。 でもそんな人でCMに出演できる人はいませんよね。で、役者さんをオーディションするんですが、 たいていの役者さんはいわゆるイメージ上のお巡りさんを演じてしまい、非常にステレオタイプな演技になってしまいます。

 つまり「お巡りさんを演じている役」には見えるのですが、本当のお巡りさんには見えない。 だから、演じているけれども何も演じていないように見える「ものすごい演技のうまい人」か、何もしていないのにそう見える 「天然の素質」を持った人を探さなければなりません。

そういう人は簡単にみつかるんですか。

見つかりません…。(笑)
ただオーディションを繰り返していくと、しゃべるとダメなんだけど黙っていると○○に見える、とか、 違う役でオーディションにきたんだけど、どう見ても○○にしかみえない、というような人が見つかったりします。そういう天然の素質を見逃さないようにしています。


演出していく上でのこだわりをお聞かせください。

そうですね…やはりディテイルにはこだわりますね。

たとえばBOSSのCMの時とかは、主役のハリウッドスターが現実の日本の社会にいる感じを出すのに苦労しますね。 彼の職業的な動作とか衣装とか小物とか…、映像的にはスタジオ撮影に見えないようにとか、 時間の都合で合成になることも多いのでそこがバレないように気をつかいました。背景も細かいところまで作り込むようにしています。

ホットペッパーはどうでしょう。

 ホットペッパーの時は「映画にアフレコをつけた」という見え方にしたかったんですね。 だから極力、ありものの映画を借りてきたみたいな絵作りにしています。「あれってなんとなく覚えてないけど、あの映画でしょ」 みたいに思われるのが一番の狙いでした。

 出演者にしても背景にしても、設定にしても、人の記憶にある映画のワンシーンに見えるように、考えて撮っています。 しかも声担当のクリエイティブディレクターが脱力するようなセリフをあてるのでそれに負けないような映像にしなければなりません。 絵とアフレコのギャップがどれぐらい楽しめるかということが大きなテーマですから。

 あとは、なるべく予定調和にならないようなストーリーの展開を心がけています。見ている人の予想を裏切ることが結果的に、 その人の記憶に残るのではと思っています。「あそこで、ああくるとは思いませんでした」って言われるように考えているつもりです。

CMを通して監督が伝えたいことをお聞かせください。

 うーん…むつかしい質問ですね。CMって望んで見るものじゃないですよね。 偶然見るっていうか…。あえてそのCMで見た人の心を動かしたいですね。見て何も感じないよりも何かを感じさせたい。 もちろん「面白い」ということだといいし、「共感する」ということでも構わないし「すっごいキライ」でもいいですけど…。

自分が作ったCMで、見た人の人生のほんの一瞬にでも影響を与えたいですね。
あ、もちろん「これ買いたい」と思うことも大事ですね。(笑)




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キャスティングのイースピリットがお送りする「クリエーターズインタビュー」広告業界で活躍するクリエーターの貴重なインタビューを掲載。今回は、八木敏幸さんです。