キャスティング会社イー・スピリットがお送りするクリエーターズインタビュートップページへ戻る
辻川幸一郎監督 インタビュー
(略)  ・・・辻川幸一郎氏 ・・・e-Spirit

辻川監督の子供時代をお聞きしたのですが?

本とかテレビとか好きな、インドアなタイプの子供でした。家にはSFの本が多くて、筒井康隆とか星新一とか読んでいました。

父親は会社勤めではなかったので家にいる時間も多かったんです。輸入商のようなことをしていたので、海外の変わったオモチャとかいろいろと面白いものが家にあって、それで遊んだり、父親の仕事について行ったりしていました。

発想力のもとは子供時代に培われていたのかもしれませんね

いえ、そんなたいしたものではありませんが…。
普通の家庭とは少し雰囲気が違ったかも。 父が製本前の何も書いていない本のサンプルのようなものを持って帰ってきたりしていたので、それで漫画を描いたりしていましたね。

どんな感じのものを描いていたんですか?

SFっぽい感じ。漫画というよりはストーリーがあってそれに挿絵のような感じで絵がついているようなものです。ある漫画家の影響をかなり受けてましたが。とにかくストーリーを作るのが好きだったんですね。

映像の仕事に就くきっかけは?

友人にミュージシャンがいたのでそれがきっかけで、CDのジャケットのデザインをしたりしていました。 アイディアが面白いといわれて評判もよくて、そのうちに雑誌のエディトリアルデザインなどをするようになりました。 そんな時に友人だった、コーネリアスの小山田君から「ライブのときに流す映像を作って欲しい」と頼まれたんです。

映像の編集の経験とかはあったんですか?

いえ、ほとんどなかったです。だから、それこそ秋葉原に行って、「映像を編集するにはどうすればいいんですか」とか聞いて。 なんとか機材を揃えて手探りでやり始めました。

僕の場合普通の人とは違って、映像の仕事がしたくてというような流れでなく、 まず締め切りがあって、それに間に合わせるためにがんばったみたいな感じですね。

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『すべてはアンコントロールなもの』

個人的にはどんな映像に惹かれますか?

極端に過剰だったり、思ってもいない方向に行ってしまっているものとかは好きですね。
B級映画とか。予算とか日数とか、いろいろな事情で本人の思っていたものとは違う ところに行ってしまっている、なんか磁場狂ってるなって思うものとか。

計算どおりに進んでいるものよりは、本人がまったくそうしたくなかったのにそうなってしまったとか、思い込みが強すぎてバランスが崩れていたり。それって映像の本質なのかなと思うんです。こう、でたらめに、物事をコントロールできなかったりする感じがそんな瞬間が瑞々しく伝わってくる作品に魅力を感じますね。

自分の作品でそういう「アンコントロール」なものを感じるときはありますか?

これはこうなるしかなかったんだなと感じることはありますね。
例えば、キャスティングで、最初に予定していた人がNGになって次に来た人が良かったりすると、この人になるために今の状況はあったんだと。何か運命のようなものを感じるんです。これには何か意味があるんじゃないかと。まぁ、妄想なんですけど(笑)。

人一倍そんなことを考えるタイプで、どれくらいのレベルかという、例えばキャスティングされたい人の誕生日が12日だったら、「ここで12カット入れよう」とか。ほとんど関係ないんですけど、それが響きあっているんじゃないかと思ったり。でも、不思議とそんなことを考えてやっていると出来上がったものは「計算されている」と言われたりしますね。

そうした感覚は監督の作品の世界観にも通じるものです

ある意味そうかもしれません。
例えば、映画のポスター広告を観てすごく面白そうだと思って本編をみるとつまらないってことありますよね。それはスチール一枚から想像する映画の面白だと思います。多分、分析していないからだと思うんです。それと同じでなんでも分析しすぎないで、あえてスチール1枚で構成するみたいな感覚は、大事にしています。

だから映画を観ないでスチール一枚から想像した「映画批評集」みたいなものがあったら絶対に読みたいと思うし。今後また映画を作ることがあったらその批評も実際に映画をみないでポスター一枚を観て書いて欲しいな。

作品を観た人の反応は気になりますか

もちろん気になります。でも、確実に伝わるということを前提にはしていません。
受け手のその時の状況によっても変わってくるだろうし。コミュニケーションってすべてそうした側面があると思います。だから作品の中でも、確実の伝える、メッセージを伝えるということよりも 好きなように楽しんでもらえるかということを気にかけています。ただ、自分が考えていた以上に伝わることもあるし、そのときは素直にとてもうれしいですよ。


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作品を作る上で大切にしていることどんなことですか?

そうですね、僕が一番苦手なのは「分かっているつもり」になって作るコトですかね。“今の時代はこうだから、こんなのがウケますよ”的な。世の中をコントロールできている つもりになっている感じが嫌なんです。

例えば、ある形を鉛筆でなぞっても同じようにはできないですよね。そんなどこかはみ出てしまったりする「キワ」のようなものの方が美しいと感じるんです。 どうしたらいいんだろう、どうしたら表現できるんだろうというようなせめぎ合いの中から生まれるものがいいなと。

それは表現するうえで「確実」とか「絶対」というものはないと?

なんというか、僕は自信満々で疑いがない視点はもたないようにしています。
世の中はもっとコントロールできなかったり、曖昧なものだと思っています。そうしたものに翻弄されることに繊細に反応したいんです。

物事って常にゆらいでいるし、変化し続けているものだから、それをあまりにもクリアに説明されると違和感がある。だから、何かを作るときにも複雑でとらえどころのないものを無理やり整理するのではなく、それを受け入れて途方にくれる感じが大切かなとでも、翻弄されることは決してネガティブな意味ではなく、すごくポジティブなことなんですよ。だた、監督ってコントロールする仕事でもあるからそのバランスは難しいですね。

曖昧なものを受け入れたり、それに翻弄されるということは疲れませんか?

疲れます、すごく(笑)。
でも僕だけではないし、何かを作る人は皆そうだと思いますよ 僕はあまり「自己表現に固執しない」ので、翻弄されることもそれはそれでいいかなと。CMでもクライアントの意見にすごく反応したり。なるほどって思うんですよね。 自分の中の「コレ」というものはもちろんありますが、それが通らない現状というものに意味があるんだろうと。

現状を俯瞰で見たときに“思ってことができている自分よりも思ったことができていない自分”のほうが、シュールだし、面白い。 まぁ、上手くいかないことが多いっていうのは人生もそうで、思い通りにいかないことだらけじゃないですか。 映像の仕事をしていると、そんな自分をたくさん見る機会があって、それも魅力のひとつですよね。

キャスティングについてはどうですか?

一言でいうと「存在感」でしょうか。世界観にあっていることは大切ですが、マッチしていなくても、 どれだけ作品に「ゆらぎ」を与えてくれるか。ということを気にします。

自分で自分の世界をきっちりと持っている人はやはり魅力的ですよね。 オーデションでも外見はもちろん、内面の部分、どんなことに興味があるのかということすごく気にかけます。

オーディションでいろいろな人に出会うのは好きです。今回の作品には合わないと思っても魅力的な人だったら話を聞いてしまうこともあるし。 人を好きになりたいし、好きになって仕事したいですよね。

現場ではどんな演出や演技指導をされるんですか?

僕はテイクを重ね切れないタイプなんです。出演者の人に気を使ってしまって、トコトンまで追い込んだりできない。コントロールしたくないという気持ちもありますし。人ってすごく深いものだと思うからそれを引き出すことができたらとは思いますけど。

今後挑戦してみたいことなどはありますか?

この前映画を作ってすごく面白かったので、今度は脚本も書いてみたいなと思っています。
翻弄されるような人物が主人公の話になるかも。どんなものになるか分からないけど、 やってみたいですね、是非。

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今回のCMではどのような世界観を表現したかったのですか?

電通の崎卓馬さんの企画だったのですが、崎さんから「リアルな絵本の世界観」にして欲しいという企画だったので、その世界観をだせるように演出しました。

出演している男の子のポイントはどのようにとらえていましたか?

ただかわいい子ではなく、おとぎ話にでてきそうな不思議な雰囲気の子供に出演して欲しいと思っていました。

撮影の時に困ったことなどありましたか?

子供なので、高いところが苦手とか、グラグラしているのが怖いとか子供ならではの事情があったのですが、がんばってくれていい絵が撮れました。

CL:損害保険ジャパン  AG:電通 
CD:崎卓馬 Pr:ブラボー・フィルム Dir:辻川幸一郎
http://www.sompo-japan.co.jp/about/company/cm/contents3.html


up 辻川さん
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クリエーターズインタビュー

キャスティングのイースピリットがお送りする「クリエーターズインタビュー」広告業界で活躍するクリエーターの貴重なインタビューを掲載。今回は、辻川幸一郎さんです。