キャスティング会社イー・スピリットがお送りするクリエーターズインタビュートップページへ戻る
舟越響子さん インタビュー
au by KDDI 『LISTEN MOBILE SERVICE「リスモ」』やエプソン『offirio 「HEALTHY OFFICE PROJECT」』、ツムラ「バスクリン」などのTVCFの演出を手がける、若手注目株のディレクター舟越響子さんにインタビュー。

(略)  ・・・舟越響子さん・・・e-Spirit

舟越響子

先日、某ゲームソフトのTVCFで舟越さんとご一緒させていただきました。今回、一般の素人女性をメインに起用する演出でしたが、実際一般の素人女性を起用してみて、率直にどんな感想をお持ちですか?

おもしろかったです。用意スタートでそこから芝居が始まって、カットしたところで終わって、というような関係じゃなく、たまたま立ち止まって商品と出会う、というような演出を考えていたので、しっくりきました。

同じ、一般の素人の方にCMに出てもらおうとしても、実際に私自身が知っている人(いわゆる内タレ)を起用してしまうと、その人の事をよく知っているから「○○ちゃんカワイイ」と思ったり、「この感じは彼らしくないな」とか思ったり、そういう先入観が邪魔なので、今までやらないようにしていたんです。でも、今回の狙いは、「モデル」というより、「他に仕事を持っている人」が出るといいなと思っていて、そのときすぐ思い出したのが、すごく印象に残っていた「とらばーゆ」のCMだったんです。

不特定多数の女の子たちの描き方、本当に仕事を持ってそうな、しかも転職考えてそうな感じ、一人ずつがちゃんと映るカットの印象もよくて、いい感じだなぁと思ってたんです。で、キャスティングの情報を調べて、イー・スピリットさんのことを知ったんです。

一般の人を起用する際、どういう点を一番気にされました?お芝居などは気にされましたか?

今回ご一緒したお仕事では、いわゆる芝居らしい芝居は必要ないと思っていたので、そんなに心配していなかったのですが、雰囲気がピタッとくる人がいるかな?というとこだけですね。まぁそれはどんなオーディションでも同じかもしれないですけど。御社が街頭で一般の方々に声をかけている、という情報を聞いて、一体どういう人がそれに応じて、協力しているのか、っていうのがわからなくて、例えばすごく顔に自信がある!!みたいな人なのか、すごく我が強い人ばっかりだったらどうしようとか、そういう点はちょっと不安に思っていましたね。でも、写真を見せていただいたり、みなさんにお会いして、不安は一瞬でなくなりました。みなさんすごく自然体だったので。

本番のやりやすさ的にはいかがでしたか?

全然やりやすかったですね。たぶん出演者のお二人がよかったんだろうなと思います。すごく前向きだし、引っ込み思案すぎないところがあの二人はよかった!オーディションの時は「えー」って照れてる感じだったけど、現場まで来ると、だんだん気持ちが素直にのってきている感じが伝わりました。「私、こんなこといいですー」っていう余計な遠慮とかがなくて、やると決めた後には、「これがカワイイ」とか「これわたしに似合うと思う」とかすごく素直に言ってくれたりしました。

自分の仕事にちゃんとプライドを持っている人だから、自信を持ってああいう現場にいられるんだなぁと思いました。だからすごくやりやすかったです。普通だったら、あんな状況で、みんなこっち側にいて、「じゃ、どうぞ」っていうのは誰でもすごく緊張すると思ったので、緊張させないようにしたい、といろいろ作戦を考えていたんですが、全然大丈夫でした。普通に「お願いします」って言ったら、「はい」って言ってくれて、その場を楽しもうという気持ちのあるお二人だったんだなと思いました。

これまで一般の人を起用しようと思ったことはありますか?

『撮影経験のない人たちに出てもらうっていうのは、すごい発見がある。そして、すごく楽しんでくれるんです。』

ここ最近、いくつか実現しています。中学生を撮るお仕事があって、去年はすべて事務所所属の子たちで撮ったんです。でも今年は、お借りする中学校の、場所も生徒さん達も借りてみようってことをやってみたんです。 事務所に入っている子たちは、場慣れしているから、タイミングもうまく取れて、上手なんですよ。でもそのかわり、やっぱり『素の感覚』っていうか、もっと言うと、「その場所に馴染まない」なと感じたんです。

みんな一生懸命やってくれるんだけど、やっぱり自分がっていう気持ちとか、隣の子との関係のなさが出ちゃってたのかもしれないです。そこで、ロケ地として借りた学校から、野球部とかバスケ部とかって部活単位で生徒さんを借りようと考えたんですね。

そうすると、みんな仲が良いし、野球部の男の子たちとおしゃべりしながら誰を主役にするか決めたりとか、そういうのがすごく面白い。そのまま撮影に流れ込むので、自然な、いい絵が撮れる。例えば、みんなでリレーの応援をする、というシーンでも、ふつうは「よーい、スタート」で「せーの、ワーッ」てなっちゃうんですけど、ほんとうの学校の生徒さんたちでやると、もう走り出す前からずっと騒いでたり、別に応援とかじゃなくても「撮られてるよー」とかってその子のことをはやし立てたり、いつのまにか、ワーッて、自然になるんです。やっぱりそれはよく知っている友達同士だからですよね。全然違うなぁと思って。

そういった一般の人たち、撮影経験のない人たちに出てもらうっていうのは、すごい発見があったし、あと、その方たち自身が、すごく楽しんでくれるのが、うれしかったです。

舟越さんのディレクターとしてのこだわりや、一番大事にしていることは何ですか?

全部が超ファンタジーっていうのも大好きですけど、例えば、ファンタジーなことがひとつだけポコッと起こったりとか、心の中で思ってるだけのことが聞こえてきちゃってるとか、別の場所にあるなにかとなにかがなぜかシンクロしてるとか、そういう感じが好きで、つくってみたいなぁと思っています。そういうことをやるためには、それ以外のことは全部本当でありたいな、と思うんです。

ウソの部分以外はすごく本当っぽくないと、全部がそのためにあつらえられたウソの世界が成立してしまい、全部ウソだらけになっちゃう。でも、本当のことの中で描いていれば、ウソを印象に残せるかな、と思うんです。本当の空気をつくる要素には、色々あると思うんです。せりふとか、美術とか、撮り方とか。キャスティングも、その大きなひとつだと思うんです。 一方で、キャスティングがウソの部分を担当するときもあると思うんです。すごい普通の世界なのに隣に座っている人がすごい人でびっくりした、みたいなこととか。人がそういうパワーを持つときもあると思います。

舟越響子

舟越さんが演出を考えるときは、どのように発想が始まるんですか?

理想というか目標、という意味で言えば、企画をみたときに、その企画をどうするかっていうよりも、その企画が一言で言えば何を言おうとしているか、というくらいまで一回そぎ落としてみて、それを伝えるのに一番すてきなのはなにか、って考えたい、と思っています。

企画にあんまりとらわれないで、まず何を言おうとしているかだけを見つけて。そういう風に考えられたら、一番シンプルだなと思ってるんです。そうすれば自分の好きな世界に持ちこむこともできるだろうと。でもそれは理想で、簡単なことではないし、かなり考え抜いて、みんなが納得して、魅了されるような演出プランにまで辿り着いてないと、こんなこと言えないなーって思います。 つい仕事をしていると、事情があるとか、クライアントのせいにしたりとか、いろいろ文句が出ちゃうんですが、ほんとはそんな場合ではなくて、きっとそういう事情すべてをひっくり返すくらい良いものが書ければ、全部が解決するんだろうなと。やっぱりグチャグチャともめてしまうような場合は、自分の演出コンテにそこまでのパワーがなかったりするんだろうなと悩んだりもします。

ディレクターになったきっかけを教えてください。

はじめは言葉を書く仕事をしたかったんですが、言葉を書いたとして、それがどういう状況で読まれるかとか、そういうことにも次々興味が沸いてきて、それを突き詰めて考えていくと、じゃあ誰がしゃべっているの?どういう声で?どういう表情で?いつしゃべっているの?とか、「その言葉がある場所」というものに興味がどんどん広がっていき、そこから映像にたどり着いた感じですね。

最後に、舟越さんがキャスティングに求めることは何でしょうか?

「おお!そう来たか!」っていう提案。とにかく提案があるとうれしいなと思っています。「演出コンテを書くときは、一度撮影をするくらいにイメージして書け」と教わったことがあったのですが、確かに、あれこれ想像するぶん、書き終わる頃には、激しく思い込んじゃっていることがあるんです。

例えばですが、男の人の顔を書くときに、なんかこれはめがねだなとか思ってめがね書いちゃったりとかするんですよね。それが実際、そのまま実写にできるような人が見つかったときにすごくうれしいと思うこともあります。だってそうイメージしていたわけですから。

だけど、キャスティングの方は、私が想像する人の数なんかよりもっといっぱい各方面に人を知っていると思うので、ここは太っている人はどう?とか、あるいは、役者さんじゃなくて実は作家でこういう人がいて面白いと思うんだけどどう?とか、ここはおじさんだけどあえてこんなおばあさんでどうかとか、そういう風に色々と「おお!」っていうような提案があるといいですよね。こちらの考えるイメージと、キャスティングの方の提案をいろいろ話しあえるということは、すごく面白いことだと思っています。




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クリエーターズインタビュー

キャスティングのイースピリットがお送りする「クリエーターズインタビュー」広告業界で活躍するクリエーターの貴重なインタビューを掲載。今回は、舟越響子さんです。