TOPPAGE
児玉裕一氏 インタビュー 受け手からの反応がある面白さ
(略)  ・・・児玉裕一氏  ・・・e-Spirit

経歴を見ると、理学部化学系卒。でも今は映像ディレクター。ん!? どういうことでしょうか?

子供の頃からNASAとか科学館とか、科学技術を感じさせるものが大好きだったんです。『EXPO’85つくば科学万博』の影響も大きいですね 。そんな流れで理系の道を自然と志し、大学も化学者を目指すべく、理学部化学系に進学しましたが……。

化学者から方向転換されたわけですね?

大学2年の時、マッキントッシュと出会い、今に繋がる人生を歩むことになりましたね。知人からビデオカメラを借りて撮影してみて、あまりの手軽さに感動して。友人のバンドのミュージックビデオを作ったり、とにかく遊び感覚で映像作品を、なんとなく作ってましたね。映像を編集するソフトすらよくわからなかったのですが、マックがあれば映像を作れるらしいという噂を信じて、独学で映像をつくっていました。

いわゆる渋谷系と言われていた音楽とか、その周辺のアートワークとか、 岩井俊雄さんのようなメディアアートとか、当時盛り上がっていたサブカルチャーの魅力にどっぷりハマった学生時代でした

大学卒業後、上京、広告代理店勤務を経て、映像の世界に戻られたんですよね?

東京で夢破れて(笑)。最初は、仙台ローカルの若者向けテレビ番組の制作に携わりました。学生時代の延長戦がいきなり「テレビ番組 実践編」でしたね。ラッキーでした。企画から撮影、編集、テロップまで、一人でやって当たり前というD.I.Yな現場でした。深夜番組だったのですが、視聴者からのレスポンスがあると、もの凄くうれしかったです。この時期に「受け手からの反応がある面白さ!」に気づいてしまいましたね。

そして、再び東京へ。SPACE SHOWER TVではどんなキャリアからスタートを?

やらせていただいた番組は『激空間リクエストアワー』。毎週ゲストの選んだ MVと視聴者からのリクエストのMVが野球形式で戦うっていう2時間番組でした。この番組はフォーマットから企画したものなので、いろいろ刺激的でした。最新のMVをチェックできる環境に身を置けたことは嬉しかったですね。「ミュージックビデオ見放題だぞ」っていう。


up

MV=毎回答えが違う、新ジャンル

POLYSICS、RIP SLYME、安室奈美恵、東京事変など、優に100本を超えるMVを手掛けていますが、制作する上で心掛けていることはありますか?

継続して担当させていただくアーティストも、単発で請け負うアーティストも、MVを作る上での発想の仕方に違いはありません。

常にただ一度きりのつもりで、曲に合うアイデアを出し切りたいと思っています。そこにそのアーティストの「現在」をどう盛り込んでいくかが腕の見せ所ですね。

MVの仕事の依頼がきた時、児玉さんご自身、どのようにして映像のアイデアを考えるんですか?

全体の構成をイメージできるまでその曲を聞き続けます。僕の場合、頭の中でミュージックビデオとして再生できるようになるまでは、絵コンテを描きはじめられないです。先に音楽だけでシャドー編集するんです。「この音のカット点で映像をズーム」とか「ここではカメラがこう動く」とか、かなり具体的にイメージします。

ちなみに最近手掛けたMVで印象に残った作品は?

どの作品も愛着があるので難しい質問ですが、Perfumeの『シークレット シークレット』は非常に悩みましたね。
Perfumeは楽曲やアートワークや振り付け、映像などのによるイメージを、 ほぼ同じスタッフが長年かけてつくりあげてきたという歴史があって、それが素晴らしくって、かつそのスタッフを含めてファンが愛しているっていう状況に、何の接点も無かった自分が参加するという。しかも、8年前に広島から3人で上京し、なかなか芽が出ない時期を経ていよいよブレーク間近な状況ーー。

長年応援し続けたファンとしては、素直にうれしいけど、売れすぎるのもなんかちょっと不安みたいな感情もあるだろうし。しかもPINOがスポンサーとしてついていたのでMVに商品も入れていかなければならなかったのですが、あまりそういうのをよく思わない人もいるだろうし。でもクライアントも満足させたいし。

その結果、MVとしてどう表現したのですか?

「架空のテレビ局」という設定で、 曲(映像)が進むにつれてセットや衣装が豪華になっていくっていう、彼女たちの歴史を現実と虚構を織り交ぜて描きました。

昔の衣装や振り付けを入れたり、ストーリーのなかに「PerfumeがPINOのイメージキャラクターになるという」まさにこのタイミングでの現実をストレートに盛り込んだり。状況は次々と変化して行くんだけど、でも、彼女たち自身のピュアでひたむきな芯の部分はまったく変わってないことを表現しようと心がけました。

up

考え抜く=悩めるだけ悩む

最近はCMを手掛ける機会も増えていますが、MVとCMでは制作するにあたり、その面白さは異なりますか?

何を伝えるべきか、どうしたら印象に残る作品になるか。時間の許す限り、徹底的に悩むという意味では、両者ともその面白さに大小はないと思います。「悩む=楽しむ」なわけですから(笑)。

カンヌ国際広告賞でグランプリを受賞した『UNICLOCK』も「悩む=楽しむ」なスタンスだったわけですね?

企画の段階で、WEB用の時計を作って欲しいというオーダーと、そこに音楽とダンスを絡めたいというリクエストがありまして。ならば24時間いつまで見続けても「いいな!」と思えるものにしたいと考えたわけです。とはいえ、そんな簡単にどうすればいいかなんて思いつかないですもんね。 めちゃくちゃ悩みました(笑)。

「女性が身体表現でリズムを刻み、5秒おきにシーンが切り替わっていく」という映像表現も、その苦悩から生まれたわけですね?

そうですね。リズム感とテンポとバリエーションが鍵だと思って、試行錯誤してこのアイデアになりました。。あと、一見無機質なんだけど、つい感情移入してしまう。そんな引っ掛かりを持ってもらうために、女の子の動きはしなやかで美しいんだけど、同じ動きをしていても4人それぞれが違って見えるような仕掛けを考えました。例えば、見た人が勝手にストーリーを組み立てられるような。

ちなみにキャスティングでは、どんなことに気を遣いましたか?

ダンスができるという大前提で、ただ佇んでいるだけでも存在感のある女の子を選びました。どこか甘酸っぱさを感じさせる、そんな雰囲気を兼ね備えていることも今回の作品には不可欠だったと思いますね。

映像はもちろん、音楽も聞いていてすごく心地よいと感じるのですが……。

時報の音って、もの凄く心地いいなぁと前々から思っていました。定時を知らせる瞬間なんて、これは快感に近いものだろう、と。そんな確信から「時報の音をベースに音楽を作る」ことを提案しました。

映像が流れた後、次のダンス映像が流れるまでの5秒間の余韻も、この時報の音が効果的な役割を果たしているっていう。つまり、音楽から映像までそのトータルな表現を通して、どんな効果を狙っていけるのか。企画の段階から「悩めるだけ悩めた」結果、いいカタチになったんだと思います。

最後の質問になりますが、児玉さんご自身、今後挑戦してみたいことはありますか?

正直、今はありません。MVにしてもCMにしても、いつも新鮮な気持ちで、頭をかかえながらいっぱいいっぱいで作っている訳で……。それこそ毎回「挑戦」ですよ。マッキントッシュと出会った大学2年の時から、その状況は変わりませんね。成長してないってことかな(笑)。

up

作品集
作品集
森永乳業 エスキモー pino×Perfume×MTV「PTV」
http://www.mtvjapan.com/special/ptv/


児玉裕一‘75年 生まれ。東北大学理学部化学系卒業。大学在学中より仙台にて映像制作の活動を開始。 広告代理店勤務を経て独立。
以後、フリーディレクターとして、MV、CM、番組などの演出を手掛ける。 2006年映像クリエイティブチーム 『CAVIAR』 に参加。 NY  FESTIVAL




up

クリエーターズインタビュー

キャスティングのイースピリットがお送りする「クリエーターズインタビュー」広告業界で活躍するクリエーターの貴重なインタビューを掲載。今回は、児玉裕一さんです。