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富永まい インタビュー 「あれ? 演劇同様、映像って面白い!」
(略)  ・・・富永まい   ・・・e-Spirit

富永さんの子供時代の話をお聞きしたいのですが?

運動は苦手でしたが、元気にバタバタ遊ぶ方でしたね。おもちゃを使って遊ぶというより、絵を描いたり図画工作をしたりする方が好きだったかな?。
そうそう、団地の5階に住んでいたので、5階から人が歩いているのを見ながら、アテレコして遊ぶことにもハマっていました。何もなくても自分で適当に楽しむ方法を開発して、何時間でも遊んでいられましたね。

小学生の時から舞台に上がるのが好きだったと聞いてきますが……。

誰に聞いたんですか?(笑)。
小学校時代の学芸会は楽しみでしたね。母親に連れて行ってもらった『ガラスの動物園』(注:戯曲作家 テネシー・ウィリアムズの代表作のひとつ)という演劇がきっかけとなり、中学校・高校と演劇部に所属しまして、この時期に、何かを作り上げていくことの面白さに気づいてしまいました。演じるのも作るのもほんとに楽しくて、高校時代は年に4、5本は演劇作品の作・演出をしてましたね。そのせいか、三年間で成績が急降下したことを思い出します(笑)。

大学ではどのような勉強をしていたのですか?

俳優も演出もやれる人になりたくて、演劇コースがある美大に入りましたが……。
演劇の授業のほかに、シナリオや映画を作る授業があったせい(おかげ?)で、次第に「あれ? 映像って面白いかも!」という気持ちが強くなり、2年生から映像コースに編入しました。その後は日々課題に追われながらも、品田雄吉ゼミ(注:映画評論家・現ゆうばり応援映画祭実行委員長)に参加したり、16ミリの映像作品を製作したり……。
自主映画全盛の時代でしたが、当時のそんな空気感があまり好きになれず、エンターテイメント性の強い作品づくりを心がけ、学校内の少数派として奮闘していました(笑)。

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「身近にある幸せや楽しみを映像や音を通して表現したい」

「ピラミッドフィルム」入社後、TVCMを数多く手がけることになりますが、今にして思う、TVCMを作る面白さとは何ですか?

たとえば同じチームで毎年、ベネッセ(教育系出版社)のCMを製作させていただいていますが、とにかく現場のあらゆるものが色々な意味で豊かなわけですよ。
最新の機材や技術を使うことができるのはもちろん、才能豊かでどん欲なスタッフのみなさんに刺激をうけることが、CMを作る面白さ・やりがいに繋がっていると思います。豊かな環境だからこそ、いろいろな演出を試すことができ、同時に自分自身の勉強にもなる。このことがCM製作現場のいちばんの醍醐味だと思います。

CMを製作するうえで、一貫した演出へのこだわりはありますか?

製作に携わるクライアントは多業種にわたりますが、私の場合、ベネッセ(教育系雑誌社)や、味の素(食品系メーカー)などで、子供向けや子供が出演するCMを手がけることが多いですね。

子供にむけた仕事で大切にしているのは、大人が勝手につくりだした「こどもらしさ」を子供たちに押し付けないことです。子供たちは私たち以上に感受性が豊かですよね?だから大人が味わって充分満足できる表現をめざせば、彼らの心に強い印象をあたえると信じています。特に画づくりと音楽にはこだわりたいです。

表現方法として、より具体的にはどんなこだわりが?

その映像を通して見えてくる「色」にはこだわっていると思います。
たとえば子供3人が出演するCMであれば、それぞれのキャラクターを象徴するメインーカラーを決め、全体を通して見た時に華やかでかつ、楽しく見えるように演出します。もちろん、その商品のコンセプトを反映したもうひとつの「色」、言い換えるならば「商品のカラー」にこだわることも重要な演出です。

受け手が子供であれ大人であれ、心にひっかかるCMを作るためには、綿密な設計図(演出コンテ)が必要になってくる。アニメーションの仕事が多くなったのも、一つの世界を緻密に造り込める表現だからだと思います。

キャスティングについてはどうですか?

常に気にしているのは、登場人物がどれだけそのCMに「ゆるみ」を与えてくれるか。だからオーディションの際にはできるだけ「演じていないニュートラルな状態」を見るようにします。
子供であれ大人であれ、その人が普段どんなことを考え、どんなことで嬉しくなったり悲しくなったりするのか。キャスティングでは、人としての本質的な部分が重要な気がします。

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「何かを感じてもらえる作品を制作し続けたい」

TVCMだけにとどまらず、映画やショートムービー、アニメーション、ミュージッククリップなど、現在多岐にわたりお仕事をされていますが、なかでも印象に残る作品を教えてください!

難しい質問ですね。なんでしょう?
初めての長編映画となった『ウール100%』は、なかでも印象深い作品だと思います。

映画をつくるチャンスがほしくて、個人的に「2003年サンダンスNHK国際映像作家賞 」にシナリオ出品した作品でしたが、運よく賞をいただき、映画化できることになったんです。

実写部分の撮影期間に5週間、ポスプロに2カ月、オープニングのアニメ制作に3週間……。

長い製作期間の中で、全ての決定権が監督である自分にあるわけです。TVCMだと自分以外にもジャッジする人がいてくれるのですが、映画は振り返っても誰もいないという環境……。一つ一つの判断にOKを出してもNGを出しても結局すべて自分のとこに戻ってくる。

自分が映画をコントロールしているうちに、自分が映画にコントロールされてしまっているような体験でした。(笑)。どの作品もそれぞれに思い入れはありますが、『ウール 100%』に関しては自分の中の節目になった作品ですね。

「拾い物で埋め尽くされた屋敷に住む姉妹が、赤い毛糸で編みあげたおとぎ話」という物語設定を含め、これまでの富永さんの映像作品とは異なる世界観が凝縮された作品だったわけですがズバリ、どんなことをこの作品を通して伝えたかったのですか?

これもまた、難しい質問ですね…。うーん、伝えたいことはたくさんあるんですけどね、「観てくれた方ご自身の体験と複合して、作品の世界観をそれぞれに味わってもらえたら、嬉しいなぁ。」と思っています。

時代精神に左右されない「エンターテイメント性の強い作品づくりを目指したい」という、美大時代の考え方が今でも変わっていないということですね。

映像作品には人それぞれの楽しみ方があって当然ですし、もちろん解釈はひとつではないですよね。ただし、消費者として私自身、劇場にでかけていったら「今生活している時間とは違う世界に連れていってほしい!」と思ってしまうんです。

だから、お金をいただいて観てもらうなら「お客さんをどっかに連れていかねば!」という思いはあります。そういった意味で、広義でのエンターテイメントということになるんでしょうか。

少し前にフリーランスになられたとのことですが、最後に今後のビジョンをお聞かせください。

自分の世界観がお客さんとどんなコミュニケーションをとれるか、ということを改めて意識しなおそうと思っています。それぞれのジャンル間の相互作用も期待しつつ、活動の場を限定することなく挑戦していきたいです。…見てくれる人(消費者)の心に何かお土産をわたせて、後々にも味わってもらえるような、そんな作品を作っていけたらしあわせですね。


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「何かを感じてもらえる作品を制作し続けたい」
■作品紹介
あるところに、梅と亀という姉妹のおばあさんがいました。ふたりは何十年もの間、気に入ったゴミを拾っては持ち帰り、拾っては持ち帰っていたため、大きなお屋敷は完全なゴミ屋敷となっていました。ある日、いつものようにヒロイモノ集めに精を出していたふたりは、真っ赤な毛糸玉を持ち帰ります。するとその夜、不思議な少女が現れ、居着いてしまいました。一心不乱にセーターを編み続ける少女を、ふたりはアミナオシと名付けるのですが…。

■受賞歴(「ウール100%」)
サンダンス /NHK国際映像作家賞2003 最優秀賞
釜山国際映画祭2006  NEW CARRENTS部門 入選
Barcelona Asian Film Festival 2007(スペイン)D-CINEMA部門入選。
Osian's-Cinefan Festival of Asian and Arab Cinema(インド)First Features/Silhouetters入選。



オフィシャルホームページ



富永まいプロフィール 略歴 東京生まれ。
多摩美術大学芸術学科映像コース卒。
CMの演出のほかに、アニメーション、映画、PV、舞台などを手がける。
2008年9月よりピラミッドフィルムから独立してフリーランスとして活動をスタート。
映像作品
「ボーノーモのブスタマン」アニメーション作品
ANNECY International animated film festival(フランス)入選
TOUGH EYE International Turku Animated Film Festival (フィンランド)招待上映
TEIAF Tenerife International Animation Festival (スペイン) 入選
SIGES Spain International Film Festival of Ctalonia(スペイン)招待上映
CINANIMA International Animated Film Festival (ポルトガル)ClassG 受賞
BLACK NIGHTS FILM FESTIVAL (エストニア)入選
「ナマケモノシロップ」
「水筒少年」
「風見鶏と煙突男」
「WOOL100%」
平井堅PV「君の好きなとこ」
日テレ系ドラマ「栞と紙魚子の怪奇事件簿」
ほか多数

近年のCM作品
ベネッセ「チャレンジ1年生」
不二家クリスマス
日立製作所「WOO・ヨーロッパ」
タケダ食品 ビタミンホワイト
味の素「コンソメ」 up

クリエーターズインタビュー

キャスティングのイースピリットがお送りする「クリエーターズインタビュー」広告業界で活躍するクリエーターの貴重なインタビューを掲載。今回は、富永まいさんです。