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塚越規氏
「クラスに一人はいる「絵の上手いヤツ」だった」 クラスに一人はいる「絵の上手いヤツ」だった
(略)  ・・・塚越氏   ・・・e-Spirit

小学校、中学校時代はどのように過ごしていましたか?

ずっと絵を描いていました。クラスに一人絵がうまい人っていたじゃないですか? そんな立ち位置ですね。
授業中はずっと「ドラエえもんのキャラがドラゴンボールのように戦う」みたいなパロディのマンガを描いて、 クラスで回し読みしてワーっと盛り上がるのが楽しかった。

中学生の時は、学年中がそのマンガを知っているような感じで、卒業式の日に最終話を迎えて(笑)。
人に自分のマンガを見せることで「喜んでもらえてうれしい」という感覚が養われたのかなと思います。

では、マンガは原点ですね。

今思うとそうですね。CMで絵コンテを描く時、マンガを描いているわけではないんですけど、 自分の絵コンテってマンガみたいになるんです。
マンガ家はマンガを描く時に、ワイドで撮ったり、引きで撮ったりといったカメラアングルがあり、 効果的に見せるための感覚を持っていますよね。自分もそれが自然と身についたようで、意識していないのに、 職場で「お前レンズが分かってるな」と言われたことがあります。

そして多摩美術大学に進む。グラフィックデザインを専攻されていたんですね。

グラフィックデザイン学科に入学しましたが、当時3DCGが流行りはじめていて、「なんかいいなー」と思って。 自分でソフトを入れたり、他学科の授業に潜り込んだりして、独学で3DCGの勉強もしていました。 そのほかにも、イラスト、写真、フィギュア作り、アニメーション…という感じで、いろいろやっていましたね。

広告に出会ったのはいつですか?

大学3年生の時に、恩師にあたる中島信也さんに出会いました。信也さんは当時多摩美の講師で、授業を受講して 「これはおもしろい!」って感じて。CMって、短い秒数でいろんなことをやるじゃないですか。 イラスト、CG、実写もあるし。なんでもやりたがりだった自分にはちょうどいいかも、と思って、 それから授業を履修したり雑誌を読み漁るなどして、少しずつ広告の勉強をするようになりました。
そして、運よく信也さんの所属する東北新社に入社できたんです。

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「ファッション、声のトーン、空気感…生きてきた経験値が作風に出る」 ファッション、声のトーン、空気感…生きてきた経験値が作風に出る

東北新社で働きながら得たスピリットや哲学のようなものはありますか?

有名なディレクターと接する機会が多かったので「何が演出力を作るのか」「なんでこの人は有名な監督なのか」と いうことを客観的に見ていました。
例えばですけど、「こんな服着てるんだ」とか「こういう声のボリュームで話すんだ」とか、話し方、趣味趣向など、 そんなちょっとしたことや空気感で、その人がそのまま出ていると思うんです。

生きてきた経験値でしか自分の作品はできないじゃないですか。人間の成長が作品になる。なんとなく、そんなことを感じていますね。

塚越さんの作品は全体の構成が緻密というか、「間」がいいんですよね。

感覚なのだと思いますが、編集は評価されることが多いですね。見ている人が飽きないよう、リズムを大事にしたり、見ている人の上がり下がりのようなものをコントロールすることを考えるんです。
あとは、極力、視聴者が見たことない作品を作りたいので、何かしらエッジを入れることなどは意識していますね。

今はおかげさまでいろいろな作品をやらせていただいていますが、やっぱり東北新社に入ってなかったらできなかったと思います。
僕は演出部に行く前、2年くらいPM(プロダクションマネージャー)を経験しているんですよ。
おかげで、機材、人間関係、仕切り、予算… いろいろ学ぶことができました。そういうことも全て今につながっているなと感じますよね。

塚越さんが思う「ディレクター業」とは何でしょうか?

世の中とちゃんとコミュニケーションを取ること…かな。CMだったら商品を伝えなくてはいけないし、エンターテインメントとしても成立させたい。そのあたりの伝え方ですよね。ディレクターはアーティストではないから自己満足で作ってもダメだし。
人に対して「どう思われるかな?」「こうしたら面白いでしょ?」ということを映像を通してコミュニケ―ションしているだけで、その先がミュージックビデオだったらアーティストがよく見えること、広告だったら商品が伝わることだというのがあって。クライアント、情報、エンタテイメント、世の中など、全てとコミュニケーションすることなのだと思います。

現場でもそうですよね。たくさんの人間が関わるので、自分から話して周りのバランスを取ったりとか、そういったことも含めてコミュニケーションですね。


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「「怒涛」の2009年」 「怒涛」の2009年

東北新社を退社し、渡米したきっかけはなんだったのですか?

きっかけは、AdFest2006 Short Film Session 日本代表作品になったことが大きいと思います。国際映画祭で上映され、海外の人たちにも評価をもらって「伝わったぞ!」と感じました。「お前とどうやったら仕事できるんだよ!」と声をかけられたり話していく中で、まあ、やっぱり英語を話したいなと。要はコミュニケーションしたいと思ったんですよね。それで、「海外に行くなら20代のうちに行きたい。留学したい」と、気持ちがどんどん高まって。

会社に迷惑をかけるのは嫌だったので、いろいろなことを考えて、辞めて自由になり、誰にも迷惑かけずに行こうと思いました。

不安や迷いはありませんでしたか?

不景気に突入したての時に会社を辞めて、「大丈夫?」という声もありましたが、そこを気にしていてもしょうがないだろう、と。後悔をする方が怖かったんです。これからは海外で仕事したいというのもあるので、留学していなかったら可能性がなかったかもしれない。そう、「可能性がなくなるという恐怖」というのをすごく感じていました。
どこにおもしろい可能性が転がっているかわからない。その可能性は全てつかみたかった。

渡米して得たことは?

まず、行って本当によかったということですね。向こうのいろいろなクリエイターに会うことができましたからね。アメリカは映画産業がすごい場所だから、興味ある人がいっぱい集まっているんです。

会う人たちに作品集を配ったり、映画の前夜祭などのパーティにも足を運んでいました。潜り込んで「お前誰だ?」「俺はクリエイターだ。興味あったら連絡くれ!」みたいなノリで。運がよかったのかもしれないですけど、いろいろな人が寄ってきてくれたんです。

向こうで作品も作られていますね。

出会った人の紹介で「TBWAのショートフィルムコンペがあるから、ディレクターやってくれない?」となって、近辺で知り合った友人がカメラを持っていて、そいつがまた別の友人や外国人スタッフを連れてきて… どんどんコネで繋がっていって、ほぼみんなボランティアでやってくれてて。その作品は全世界トップ10に入りました。

あと、『Cinelympics!』という日本とアメリカで若い人の作品を競わせるような映画祭があるのですが、そこで「映像流していいよ」という話になって。もっと『Cinelympics!』を世の中の人に広げるためにCMを作ろうと思ったんです。
アメリカと日本が、それぞれ相手の国に持っている"映像に対するステレオタイプ"のようなものをコマーシャルにしてCMを作りました。そこでもまたいろんな人が集まってくれて、有名なラッパーや役者も出てくれて。その現場は、みんなでわいわい撮影して本当に楽しかったですね。

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「ブラックでファンタジーな、自分の世界観を出していきたい」 ブラックでファンタジーな、自分の世界観を出していきたい

ショートフィルムは世界トップ10に入るなど海外で高く評価され、『 Cinelympics! 』のテレビCMもアメリカでオンエア。アメリカの刺激を受けて帰国された。

そうして「 THE DIRECTORS GUILD 」に参加、日本でのフリーランスの活動を再開し、今に至る・・・って感じですね(笑)。
アメリカがどう、日本がどう、とか、技術や手法がどうだと言ってもキリがないですし、時代に敏感になって新しいものを取り入れることが面白いんだと思います。ただ、人に見せる、楽しませるという意味は変わらないんだなぁと実感していますね。

塚越さんの中で、キャストを選ぶ基準やこだわりはありますか?

ちゃんとその人を理解することです。この人はこんな雰囲気なんだぁ、このセリフだとこうなるかなぁとか、自分の中で理解した上で企画に合うか、作品を見た視聴者が感情移入できるかなどをジャッジしますね。ただキャスティングというのは、ご縁というか。周りのスケジュールもあるし、難しいですよね。

今後挑戦していきたいことはありますか?

長編映画を5年後ぐらいまでには撮りたいなと思っています。
僕自身の作家性というか、ショートフィルムが持っている"ちょっとブラックでちょっとファンタジーな感じ"を映画に反映できたらいいですね。あと、人間を描きたいですね。人の深さみたいなものを、できればフィルムで。

もともとはCGから入ったのに、人を撮りたいとか、コミュニケーションとか、フィルムとか言って、どんどんアナログ化していくんですよ。おかしな話ですよね。


【編集後記】

ユーモアで、かつ愛のある独特の世界観。そんな作品が魅力の塚越監督。
取材スタッフに「Cinelympics!」の映像を見せながら説明してくれたり、話の中に多くの知人やクリエイターの名前が出てきたり。エッジのきいた発想やアイデアはもちろんのこと、何より、物事の基本となる「コミュニケーション」を大切にしている方だと感じました。
「2時間しか寝ていない」というほどお忙しいところありがとうございました!


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Cinelympics! 作品のご紹介

映像はこちら→ http://cosmobox.channel.yahoo.co.jp/index.php?blogid=8


●参照
※AdFest2006 Short Film Session (アジア太平広告祭 ショートフィルム部門)
…「アジア太平洋広告祭」、通称「アドフェスト」は、毎年3月、タイ・パタヤにおいて開催されている、アジア最大の国際広告祭である。TVCM部門、プリント部門、アウトドア部門、ダイレクト部門、サイバー部門、360°部門、ラジオ部門、フィルムクラフト部門、プリントクラフト部門、ポスター部門、デザイン部門、ニュー・ディレクター部門、イノーバ部門、ロータスルーツ部門の計14部門からなる。 賞の選定に際しては、「該当作なし」といった厳しい評価基準も設定されており、アジアのみならず世界で評価される、クリエーティブ・アイディアが溢れている。さらにこの広告祭の特筆すべき特徴は、全く非営利のNPOの組織で行われているという志の高さにあると言える。
http://www.adfest.com/

※Cinelympics!…若手クリエイターによる、日米の国際的短編映画バトル
http://cosmobox.channel.yahoo.co.jp/index.php

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クリエーターズインタビュー

キャスティングのイースピリットがお送りする「クリエーターズインタビュー」広告業界で活躍するクリエーターの貴重なインタビューを掲載。今回は、塚越 規さんです。