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大野大樹氏 インタビュー
海外のコンペにてグランプリ受賞 海外のコンペにてグランプリ受賞
(略)  ・・・大野大樹氏   ・・・e-Spirit

映像制作の原点を教えてください。

子供の頃ゴジラとか仮面ライダーとかの特撮モノが好きで、テレビを見たり父によく本を買ってもらったりしていました。僕はその中の特撮のメイキングがおもしろくて熟読するような子どもで、その頃ジュラシックパークが流行っていたりもして、映画の手作り感っていいな、効果マンとかやってみたいなって思ったり。あと、父は僕が小さい頃になくなってしまったのですが、父の日記に「大樹が映画監督になりたいと言っている。大樹の作った映画を見てみたい」というようなことが書いてあったのを見て、「ああ、自分はこうやって映像作りに興味を持ったのか」って思いましたね。今手掛けているのは映画でも特撮でもありませんが、そこがモノづくりへの原点だと思います。

高校時代は海外留学をされているようですが。

ハリウッドの影響を受けていたので、映画を勉強するならアメリカだろうと、総合大学で映画を学べるところに入学しました。チームを作って、監督から脚本、スケジュール、オーディション、カメラ、照明…と、自分で全部やって、その時にファイナルカットも覚えました。この時の経験が、ゼロから完成まで全部やることの基礎体力になっているようにも思います。

海外経験が評価されたのでしょうか、AOI Pro.では、最初海外業務のサポート部門に配属されたとのことですね。

僕がいた国際クリエイティブユニットは世界中の監督の作品集が集まるので、海外のディレクターのコーディネイトや資料探しをしていました。演出がやりたいっていうのは入社当初から上司に伝えていたのですが、「やってみたら?」って理解を示してくれ、カンヌ広告祭で開かれた『※MOFILM CMコンペ』に出展したところ、なんとグランプリを受賞。そこまで影響力が大きなコンペではなかったのですが、社内で受賞の評判が広がって、希望していた企画演出部に異動になりました。通常の、プランニングを勉強してから演出をやるというルートを通らずにここまできたので、多少、広告をつくるうえでの組み立て方が異なるとは思いますが、そこも自分の味なのかなとポジティブにとらえています。

※MOFILMは100カ国以上にまたがる映画製作者の世界的なコミュニティーで、有名ブランドのビデオコンテストや特注のコンテンツを制作する分野のパイオニア


海外らしい雰囲気で人間の魅力を描く大野作品 海外らしい雰囲気で人間の魅力を描く大野作品

海外作品と日本作品の両方に造詣が深い大野さんが考える両者の違いってありますか?

もちろん作品によりけりですが、大きいのは海外のCMが90秒、60秒…と幅があるのに対し、日本のCMは15秒、30秒という比較的短い枠になってしまうことでしょうか。日本の広告は伝えたいことが多く、商品も見せたくて…という中で時間に縛られてしまい、フォーマットができあがってしまっているような気もします。
あとはタレントの力が大きいことですね。「○○さんのCM」、みたいに有名人の起用が一番の話題になるのは、海外ではあまり見られないように思います。

大野さんは、人の描き方が外国っぽくて、ドキュメンタリー性が強く、「なんか人っていいよなあ」って素直に感じられる作品が多いですよね。

心が動くのって、共感によって自分事になる瞬間だと思うんです。だから大事にしています。 ドキュメンタリー性があるというのは、演技をつけることを学んでこなかったからかもしれませんが、その人の良さをできるだけ出す方がうまくいくことの方が多くて。海外でもドキュメンタリーの授業をとっていたし、是枝裕和監督の「ワンダフルライフ」・「誰も知らない」などの制作過程を知って、演技に固執しなくてもいいんだなって影響を受けたことも大きいです。

芝居を引き出さないといけないときはどうされるんですか?

苦戦します(笑)。だから、素人さんだったり子供だったりしたときは、まずそういうシチュエーションを作るようにしています。親と一緒に来てもらって、子供が親と遊んでいるときの表情を寄りで狙ったり、笑えるような雰囲気づくりをしたり。作ったニコって笑い方と、思わず出た笑い方は違うと思うんですよね。自然なものが素敵だなと思うんです。

作品『放送大学』の構成力や自然さは大野さんらしさが活かされたものだったと思います。

出演者はバスドライバーや主婦の方など、実際の学生さんだったので、その方々の生活が垣間見えるようなものにしたいと思い、平面っぽくせず、その場にいるような感じで作っていきました。人間って、意外と細部から得る情報って大きくて、顔のしわだったり、服や部屋に置いてあるものとか、ちょっとしたところから印象を受けたりすると思うんです。だからきれいに整えるんじゃなくて、生活感からでてくるディテール、空間も含めてその人が伝わるようにしたいって。学びたくても忙しさとかいろんな理由があって一歩踏み出せない人が「勉強するっていいな」って思ってもらうために、勉強している姿と、普段の生活の両方が素敵に見えたらいいなと。それが共感につながれば、という思いで作りました。

SOUR『映し鏡』や『Google Chrome 初音ミク』とか、インタラクティブな作品も最近は多く手掛けられてますよね。

演出家は一人で追及することを求められがちですが、それによって凝り固まってしまわないように、他の人と新しいものをやる興味はあるし、刺激になります。
初音ミクに関してはCDの方と一緒にやった案件なのですが「ミク好きはメディアリテラシーが高いので、フレーム単位で分析されてもそれに耐えうるものを作ろう」って話し合ったんです。
実際、作品上で使用させていただいた初音ミク クリエイターの方々の名前が最後に出るところがあったのですが、ニコ動にあがっていたり、コマ送りしないと見えない程度の名前も案の定フレームで分析されていて、「狙い通り!」みたいな(笑)。

コマが分かれて多くの人達が映っていますが、あの方々は?

全て実際にミクに関わっている人たちです。ごまかしがない方がいいだろうと思って、一人ひとり連絡を取って撮影をさせてもらいました。最近思うんですけど、そうやって汗水たらして作ったものって、何らかのエネルギーを帯びるように感じているんです。コアなファンの方々がそれを見て盛り上がっている様子も嬉しいですし、ミクに興味がないから理解できないじゃなくて「なんかわからないけど感動する」っていうコメントがあったりして、きっと細部のツメや細かいエネルギーがそういう風に見えるんだと思うのですが、それは自分にとってすごい褒め言葉でした。

SOUR『映し鏡』や『Google Chrome 初音ミク』を通してインタラクティブについて感じたところはありますか?

インタラクティブへの興味が高まったことに加えて、映像ってテレビで流すことだけがすべてじゃなくて、Webでのレビュー数が増えたりとかがすごく嬉しかったりします。

自然な表情や、不意に出る笑顔を見たい 自然な表情や、不意に出る笑顔を見たい

「極力演技付けしない」ということですが、キャスティングに対してはどういうポイントで見ていますか?

オーディションでは演技してもらうというより、会話を通して「こんな笑い方をするんだ」とかっていうのを見て選ばせていただくことが多いです。
その上で、キャスティングの方の意見が聞けるとありがたいですね。僕以上にその方を知っていると思いますし。

キャスティングが意見、言ってもいいんですかね?こちらとしては言ってもいいものなのか…と思ったりもするので(笑)

僕は自分のジャッジを信用していないので、とくに聞きたいです!
映画なんかで描かれるディレクターって、200人の中からこいつだ!とかなんとか運命を感じて選んで大成功して…みたいなイメージですよね。そんなのって僕自身に訪れることはあるのか?と思います(笑)。そう考えるとやはり客観的な意見が必要だと感じます。

この役者にインスピレーションを受けたぜ!みたいな(笑)。

そう(笑)。僕、ポルトガルでオーディションをしたことがあるんですが、向こうはオーディション慣れしているのか、1つのスタジオで一日にいくつものオーディションが進行していて、いい意味でシステマチックになっている気がしました。出演する方にはチャンスが多いし、その場の雰囲気もナチュラルで、いいなあと感じたんです。そういうのが増えたらいいですよね。

今後の目標を教えてください。

小さい頃の「映画監督」の夢を形にできたらいいですね。そこでもたぶん「共感」がテーマになっていくと思うんですけど。見てくれた人が、ちょっと人生がよく見えたり、ポジティブになれるような作品を作れたら、その映画が生まれる意味があるんじゃないかって思います。



大野大樹氏
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クリエーターズインタビュー

2013年からは『ヤングクリエーターズインタビュー』をお届け致します。
第1回目はAOI Pro.大野大樹さんを
インタビュー!