TOPPAGE 畔柳恵輔氏 インタビュー
(略)  ・・・畔柳恵輔氏   ・・・e-Spirit

映像に興味を持った原点を教えてください

実際作り始めたのは中学生のときですね。英語部で文化祭に向けて何かやろうってなったときに、同級生が「映画を作ろう!」って言ったんです。 彼とはのちに大親友になって、今はテレビ番組のディレクターをしているんですけど、中2の段階ですでにマニアックな映画通で「クエンティン・タランティーノの『レザボア・ドッグス』っていうのが面白い。 会話劇なら自分たちにもできるんじゃないか」なんて提案してくるので、みんなでレンタルして見たんですよね。そしたら、もうドッカーーーーン!とすごい衝撃を受けてしまいました。 退屈な会話から始まって、パッとカッコいいタイトルに切り替わって…という、あの映像美にやられて「俺はこれ撮るんだ!」って意気込みました。 VHSを止めて何回も巻き戻して台詞をおこしたり、構図をメモしたり。そこから中2〜高2の4年間で、40本くらい映像を作りました。

映像の1本道をずっと歩んできたのですね

ただ、電通クリエーティブXに入社した後はちょっと悩んでいました。というのも、これまでの自分はただの映画大好きオタクなんですよ。 身近にはゼロから100を生み出すような天才的な人がいて「勝てねえや」って思うことも多かったので。映像が好きで美大で映像の学科に入って、そのまんま映像の会社に入った。 それが幸せな事だというのが大前提としてありながらも、見る側の立場を離れてないんじゃないかというジレンマがありました。
仕事にするからには、オタクとしての戦い方を身に付けていかないといけないって思いましたね。こんなに見てるんだとか、こんなに研究してるんだってところから生み出されるオマージュやパロディを自分の強さにしていこうと思っています。 ただ、それがかえって人にとってわかりにくいとか、共通言語ではないってこともあると思うんで、両方が日々勉強だな、とは思うんですけど。


これまで手掛けた作品の中で、乃木坂46衛藤美彩さんの個人PV「衛藤美彩×畔柳恵輔」、「カルピス オアシス」、リマーカブル・ディレクター・オブ・ザ・イヤー2013受賞作「卒業生のことば」、「ドコモ スマートライフ」の4作品をピックアップしてお話を伺わせてください。

手掛けた順番にいうとまず乃木坂ですね。テレビって、制作過程自体も番組にしてしまうという手法が可能なメディアだと思っていて。裏も表もありのままに見せることで生まれる発見や、形になってないがゆえの面白さもあるだろうし、それを表現したいと思っていました。そこを少し広告という立場において作ることができたといういい例だと思います。単純に言えば「ドッキリ」なんですけどね(笑)。企画としては、乃木坂46の衛藤美彩さんにすごい長台詞をワンカットで言わせて、悪戦苦闘する必死な姿がファンは喜ぶんじゃないかって思ったんですよ。
やっぱファンからの評判はものすごくあって、「ベストオブ個人PVだ」とか「ここまでやらせるか?」など多くの反響がありましたね。でも衛藤さんには大変申し訳ないことをしました…。



空気感が爽快でとにかく面白い!と感じたのが「カルピス オアシス」ですね。

初めて企画コンテを頂いての仕事だったのですが、見た瞬間にプランナーさん達がどういう狙いでどういう事をやりたいのか直感的に分かったんです。だから演出コンテに落とす時も「コレ欲しいですよね?コレですよね?」って悪ノリできましたね(笑)。
OLさんが東京砂漠の中で仕事にも同僚にも嫌気がさして乾いているっていうんだから、加湿機のメーカーで働いている設定だよね、とか、ストレスの原因である上司や後輩もキャラ設定して、西新宿の高層ビルを映し出すことでカラオケのチープ感を出して…。で、歌って頂いている前川清さんにレコーディング風景のメイキングを撮るという体で出演してもらって…と、ニッチでB級映画好きの自分が活かされたかなあと。
撮影前の段階から「いいですね?!」って大爆笑を経験できたことも嬉しかったし、演出にこだわれることが嬉しかったし、それに応えてくれる役者さんにも嬉しかった。そこからいい流れがきている手ごたえがあって、リマーカブルの受賞につながったと思っています。



リマーカブルは初挑戦、初受賞だったと伺いました。

社内のプレゼンを経て出るんですけど、それまでのリマーカブルのテーマは自分にとって難関で、なかなかあと一歩が届かなかったんです。というのも、どっちかの立場に立つことを求められるテーマは僕の性格上できないようで、考えれば考える程俯瞰になってしまい、一歩引いているのがツメの甘さになる。社内で「モチーフは面白いんだけど、最終的に何を言いたいんだよ」といわれることが多かったです。
ただ今回は「いじめ防止」ということで、ちょっと俯瞰したところが逆に企画でも演出でも共感値を高めることにつなげられて、よかったと思っています。
最終的にいじめられていた側、いじめていた側、それを見ているだけだった側という全員の立場を描いて、評価してくださる方も「リアルで良いよね」とか「最後一コマで何がおこるのか、そのままあの子達は笑顔で卒業していくのかそのあとどうなるのか、考えるとモヤモヤするね」というようなことをおっしゃっていただきました。
自分的には、映画っぽく立場を明確にしないでそれぞれに感想もってもらうみたいなことで成功できたすごくラッキーな例だなぁと思っていて、だからこそこれからが怖いぞっていうのがありますね、やっぱり。



その次が広告性の高い「ドコモ スマートライフ」ですもんね。

「学生時代から得意としている会話劇の腕を見せてみろ」ってプロデューサーさんに声をかけてもらいました。実はタレントさん(石原さとみさん)を自分で演出するのは初めてで、尺も長いし、美術も作りこむし、会話としてのエンターテイメント性もインフォーマルな面も必要だし…と、大きな事を任せられた不安は多少ありました。
その場で考えて入れた脚本で面白く出来たパートもありますが、何より脇を固めていただいたキャストさんに感謝です。写真中心に選んだのでキャスティングの方頼みでしたが、実際にすごいポテンシャルを持っていた方々で、アドリブだったり、パーソナリティーだったり、勘の良さだったりに救われているパートもあります。だから、助け合いつつ4つのオニムバスとしてできたのは自分にとっていい経験でした。
変な話、すぐ映画に置き換えてしまうので「このキャストで映画にしたら…」なんて考えたりもしたほど。とにかくいろんな意味で勉強になりました。



キャスティングについてはどうでしょうか。

僕は、正解を明確に持って「僕の求めている正解を下さい」っていうタイプではないです。むしろ「こういう方向あるかもしれませんよね」と言うこともあり、時としては頼りなく思わせてしまっているかもしれません。でもそれに対して自分で考えて幅を見せてくれる人もいれば「それじゃ分かんないので言って下さい」って人もいるし、そこは人それぞれのやり方なんだと思います。
キャスティングは楽しいですよ。誰かの卒業アルバムって見ていると時間があっという間に過ぎるじゃないですか。この子人気だったよとか、将来変わってそうとか、勝手にあーだこーだ言って楽しめちゃう。オーディションの後のシートってそれに近くて、ずっと「もしこの人がメガネかけていたら」とか「悪い役にしたら別の印象になるんじゃないか」とか考えられる。幅とか提案を持っていただけるのはありがたいですね。

今後、やはり映画を作りたいと思いますか。

一生に一本でもいいから作れたらいいですね。CMの世界じゃ出来ない虚構の世界を描くこともやってみたいし、何もフィルターも入ってない、ただ自分の視点に近い見ているだけに近いようなドキュメントみたいなことにも興味があります。
色々な人の生活でも人生でも、ありのままを見て受ける衝撃とか、何ともいえないモヤモヤした感情をアウトプットする手段は、僕には映像しかないので。
一度広告って立場から離れて、かつ自分と向き合ってみて、その経験が広告にまた生かせるのか、ということにも興味がありますね。

ありがとうございました。



畔柳恵輔氏
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クリエーターズインタビュー

キャスティングのイースピリットがお送りする「クリエーターズインタビュー」広告業界で活躍するクリエーターの貴重なインタビューを掲載。今回は、畔柳恵輔さんです。