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辻川幸一郎氏
「チャーミングな世界を描いた」 チャーミングな世界を描いた
(略)  ・・・辻川氏   ・・・e-Spirit

辻川監督へのインタビューは2回目なのですが(1回目はこちらから)、 今回は、一緒にお仕事をさせていただいた「東京ガス」のCMをメインにお伺いさせていただこうと思います。

「東京ガス」に関しては、最初に企画コンテをもらったときに、いい意味で演出が詰められていないと思ったんです。 セリフ回りや企画でトリッキーなことをしていない点では王道であり、演出の幅を持たせてくれるように組んであると感じたんですよね。 僕はシンプルな企画を演出で肉付けするのが割と好きで、それができるのが面白いと思いました。

企画コンテの段階では、どのような流れでしたか。

まず「東京ガス」でやろうとしていることは、天然ガスは未来につながっているエネルギーであり、 低炭素社会を実現するためには、なくてはならない未来のエネルギーであるということを伝えること。天然ガスから電気を作ったり、 未来では水素で車を動かしたりといういわば夢の世界を表現するために、まず、クライアントさんの企画の意図をかみ砕いてファンタジーに 仕上げるというのが今回の僕の仕事だと感じました。

工夫された点はどこでしょうか?

“こうなってしまうとまずいな”というポイントを見極めることですかね。
このCMは父親のナレーションで話が進んでいきます。そして、現実ではありえない空間を図式的に説明していく展開です。 これをやってうまくいかない場合ってどうなるかというと、夢の世界がペラペラした背景のセットになってしまい、 全てが薄いものになってしまうこと。だからといって本物の家を建てられるわけではないですし、 未来の世界観を実写で製作するのはほぼ不可能。そして、人間のスケール感のままでやっていくと説明的な絵で修辞してしまい、 CMなのに広報ビデオや教育テレビのようになってしまうという危険があるんです。そこで、説明を表現の方向へ持っていきました。

人形劇にしようという発想はどうやって生まれたのですか?

ファンタジーをより表現できるということもあるのですが、主役となる子どもは長期間拘束できるキャストではないので、 日程なども考えると半分は人形がストーリーを進め、最初と最後のポイントのところで登場してもらうと撮影日が収まるのかな、 と思ったというのもありますね。
あとは場面転換をどう作ろうかなというところで。眠りにつく女の子が父親の話を聞きながら、想像なのか夢の世界なのかわからない ような雰囲気になっているので、現実と空想の中の表現をどうつなごうかなって。よく昔から映画で昔の世界がふわふわって 出てくるような場面がありますよね。それのような感じで、お話の人形劇の世界だったのが、最後はベッドとつながって ベッド回りで想像の世界を描いちゃおうと。

そのファンタジー感がいいですよね。

人って、足りなさ加減によっては想像を膨らましやすいものだと思うんですよ。今回なら、人形劇っていうルールの中で 動いて想像してもらっているので、あえて中の世界で手作り感を活かし、絵本の中の世界のようにしたんです。

難しかった点などはありましたか?

ガスを擬人化するのが難しかったですよ。ガスって気体じゃないですか。見たことないし(笑)。だから「GAS」って書いちゃいましたよね。
僕は教育テレビとかも好きで見るんですけど、教育テレビって映画とも違って独特の世界観ですよね。 あえて“これは作りものだ”みたいな、相応の面白さがあるんです。ジャンル映像っていうのはそういう読み説き方ができるんですよね。 西部劇、時代劇みたいなジャンルっていうフィルターを通して、そこからの広がり、工夫、はずし、王道……というように、 豊かに情報を読み取ることができる。多彩というか、正解が一個あってこっちはチープだとか本格的だとかではなく、 その中から発見していくことは面白いですよね。

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「あえてキーワードの幅を持たせること」 あえてキーワードの幅を持たせること

キャスティングに関してはいかがですか。

僕は「こんな感じの人が欲しいな」というのを、あえてキーワードの幅を持たせ、クサビだけを出して伝えることが多いんです。 それでどんなカードを出してくれるのかな、というのを楽しんだりもしていますよ。
人と人を会わせるのが好きな人っているじゃないですか。それを仕事にしているって面白いと思って。 紹介して、そこである種の流れとか地場って生まれるので、キャスティングは運命を合わせる仕事ですよね。

前回のインタビューでは「出演者へのテイクを重ねきれない」とおっしゃっていましたが。

そうですね。自分は、その人を型にはめたくないので、いいところを見つけて掘り出したいんですよね。 その人の良さが出ていないと思ったら、もちろん自然な形で何テイクか撮りますけど、「こういう演技をしてくれないと困るからこうしてくれ」って いうタイプではないんです。そうすることで委縮してほしくないですし。

確かに、辻川監督はオーディションの際も肯定して進めていかれていると思います。

そもそも、その人のできることをオーダーして、振れ幅の中でないものは要求しないというか。 存在感を大切にしたいので、こっちで型にはめてやりたいとは思わないですね。あと僕は割とオーディションに行くのも好きで、 プロフィールやファッションなどを見るのも好きなんですよね。


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「基本は、運とか偶然とか出会い」 基本は、運とか偶然とか出会い

他のCMではいかがですか。

やはり役者さんなりタレントさんの魅力を出したいので 追いこむことは少なく、会話しながらちょっと脱力した感じでやりますね。 だらっとした空気を出したい場合は、テイクも少なくしたり。まあ、今回の「東京ガス」でいうと、読み聞かせなので、 ある程度しっかりとやってくれる人をキャスティングさせていただいていますし、企画による部分が大きいので、やり方はバラバラなんですけどね。

リレーで映像を作ったり、本当に幅広いですよね。

何度か仕事をさせていただいているクライアントさんで、代理店を通さず、企業の方々と話しながらやっていくのですが、 とても楽しいですよね。企画会議でもみなさんが各々の意見を発して、クリエイティブにこだわっていて。そういうパワーっていいなと。
理屈やセンスだったりもあるんですけど、基本は運だと思ったりするんですよ。キャスティングもそうですし、作品との出会いだったり、 人との出会いだったりでモノができていくじゃないですか。そういのって、面白いですよね。


【作品詳細】
CL:東京ガス  Dir:辻川幸一郎

〜あしたの話篇〜
http://www.tokyo-gas.co.jp/channel/200ch/flash/env01_30.html

〜あしたのあしたの話篇〜
http://www.tokyo-gas.co.jp/channel/200ch/flash/env01_02.html

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【編集後記】

CMというのは虚構の世界であり、伝えることを強く意識しすぎると、ともすればつまらないものになってしまう。
そこをファンタジーな世界に落とし込んでいくのが辻川監督の演出の魅力のひとつ。 「東京ガス」でも、未来の街の表現が秀逸で、これぞ辻川監督という世界観です。前回のインタビューと合わせてお楽しみください。


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クリエーターズインタビュー

キャスティングのイースピリットがお送りする「クリエーターズインタビュー」広告業界で活躍するクリエーターの貴重なインタビューを掲載。今回は、辻川 幸一郎さんです。